2011年開催の「『東方Project』が可能にしたもの ―プラットフォームとしての<東方>」を今だからこそ振り返る
2011年12月に東京大学にて開催されたコンテンツ文化史学会のシンポジウムでは、『東方Project』が可能にしたもの―プラットフォームとしての<東方>をテーマとした、東方Project二次創作者らによる発表と、上海アリス幻樂団 ZUN氏を交えたパネルディスカッションが行われました。ニコ生でも放送されていたようなので、記憶に残っている方もいることでしょう。僕は会場で直接お話を聞いていました。
タイムシフトがまだ生きているっぽいので視聴するのもいいと思いますが、発表内容を書き起こしたものを用意しました。
コンテンツ文化史学会 - コンテンツ文化史学会2011年大会「オタク・ファン・マニア」
【書き起こしメモ】
□DNAさん(D.N.A. Softwares)発表
・登場キャラが20人いればゲームになる
・人のつながり→幻想麻雀
・東方は全てのキャラに一定数のファンが居る。だからオールスターという考えはダメ。
・「このキャラだったらあの絵師さん」というイメージが東方にはある。これは東方の特徴。似ているものとしては各キャラをプロデュースするという意味でアイマス。
・幻想麻雀は空気を読んだ依頼をした。
・幻想麻雀、現在も1日500人くらいはオンライン対局している
・東方の魅力は新規参入が多い。人が減らない。オリジナルもやりながら東方でも活動できる。ユーザーとの距離が近い。
□有馬啓太郎さん (日本ワルワル同盟)発表
・二次創作は好きだからやる。
・ベースが良質→二次創作し易い
・想像の余地がある→良い意味で隙が多い
・霊夢の学術的考察
・頭のリボン→見栄えがいい
・あのリボン、ドラえもんのスネ夫ヘッドのように顔の角度が変わっても崩れない。
・下手に絵に詳しいと躊躇う描き方
・自分なりに判断していける
・自由に動き出す余地がある
・東方の曲にもアレンジできる余地がある。
・絵・話・音楽の3要素全てにアレンジできる余地があるのが東方
・自分の中で自由に発想できる
・風神録が好きでも「東方」が好きといえる→他のゲームだったら、ありえない
→分離しない一体感を出している
・コミュニティーは東方がベース。→イベント後とかの会話は東方じゃなくて、カメラの話や旅行の話ばかり
・イメージの固定化がされない
・あるキャラからあるキャラに対する公式の反応がない
・常に新しいコンテンツの提供
・「これから始めても大丈夫!」→新規参入し易い
・あるキャラを好きになったあと、ずっとそのキャラに関する情報を探し続けられる
□島村純平さん(東方紅楼夢主催) 発表
・東方との出会いは偶然→部活のPCに紅魔郷が入っていた
・大坂でオールジャンルのイベントを開催するための実績作りのためにオンリーイベントを主催することを考える→たまたま東方を選択→今に至る
・紅楼夢第1回:175SP→紅楼夢第7回:2500SP
・東方の魅力、描き手
・「レミリアと咲夜さんの関係は?」→従者・・・
→相関関係が最小限
・受け入れる土壌が広い
・突飛なものを書いても面白ければOK
・独自の世界観を広げる楽しみがある
・東方の魅力、受け手
・相関関係が最小限
・描いている人の考えがそのまま反映される
・話の作り方やキャラの組み合わせ方
・イベントは時間や場所の提供
・楽しさを感じる
・見るも描くも自由。TRPGのよう。
□小此木さん(一迅社)発表
・2005年の段階でも書籍の売上数はそこそこ。当初は20~30代の人がメインの読者層だった
・具体的な数字は教えられない
・二次創作書籍を作る際に気をつけること
・必ず作品に触れる。ゲームなら実際にプレイ。アニメなら全話視聴。
→神霊廟、会社のPCで霊夢で2回ちゃんとクリアしました
・初めから「2次」の意識を持って作らない。「1次」もしくは「1.5次」
・ファンに必要とされるものを
・活動的なファンが居るかが重要。人気だから売れる訳じゃない。
・東方はZUNさん1人で製作している。1人の意思で作られている
・先に音楽を製作し、そのあとそれに合わせたステージ設計
・商業的な視点からの東方
・ハードルの低さ→覚悟を決めてヲタクになる必要がない
・インターネットの普及
→ニコ動に書き込みが多い年代は小・中学生
→「世間では知られていないコンテンツを知っているぜ」という厨二的な考え
・茨歌仙で読者層のアンケートを取ると10代が一番多くなった
・良い意味でのゆるさ
□ZUNさん
DNAさんの発表に対して
・DNAさんの東方に対する歴史やイメージに近いものを持つ
・同人ソフトの横のつながり、サークルを越えた繋がり
有馬さんの発表に対して
・大きくなってからの東方
・東方が存在してからの入り方
・隙が多いのは二次創作のためではなく、続編を作りやすいようにするため
島村さんの発表に対して
・部活のPCに入っていた→良い宣伝
・PCにゲーム入っているとついついやっちゃう。ソリティアとかね
・イベントについては詳しくない。参加するのはコミケと例大祭だけ
・自分が楽しみたい
小此木さんの発表に対して
・商業も1次創作だと思っている
・東方は1次・2次、みんな対等
・アニメ化はしない→東方とは違うものになってしまう
・アンチ商業という訳でもない
・今の一迅社は一次創作→著者としてZUN
・文花帖は二次創作品
・紅魔郷のコミカライズ
→既に一度出したものを再変換するのが面倒。
→作るなら新作
コミカライズは避ける
□4人のディスカッション&質問タイム
・二次ネタを原作には使わないし、そもそも詳しくない。
・東方界隈の流れについてはその時のタイミングで適切なことをしている
・作品についてはしっかり考えている
・文と椛の関係について→まわりを知らないから狙ったわけじゃない(たぶん
・ゲームは水物
・小此木さんの企画は面白くない。普通。
・飲み屋にいると旬の食材とかがあるからネタだしし易い、コーヒだけじゃダメ
・茨歌仙のあずまあやさん、打ち合わせの時未成年だから飲めない
・原作をやらずにニコ動で二次創作を楽しんでいてもいい。宣伝になっているし、それで原作に興味を持ってくれたら嬉しい。少なくとも誰が製作しているかとかを認識しているからアニメ化よりもいい。二次創作、三次創作をしてもいいと思う。
・ガンダム見てないけどガンダムのネタは知っている。
・幻想郷に電気はある。現代の生活水準と同じ。東方は現代の話。
・(有島)都合のいいキャラいますよね。にとりとか
・(有島)東方には舞台装置が揃っている
・商業は二次創作にはなれない。そういう目で見る人はいない。
・アニメ化含めた商業をやりたくないのは、東方が自分のものじゃ無くなりそう。商業でも1人で作れるのならやる。でも今はそんな時間はない。
・冬コミで東方サークル数が微減したことについて
・サークル数はこのままのイメージを持っている
・少子化の影響でこれからはサークル数もあまり増えないと思う
・(有島)タイバニ効果もあるし、全体の枠の数は決められているから簡単にはコメントできないと思う
・何故最初に巫女さんが出るゲームを作ろうとしたのか
→95年当時、巫女さんが出ているゲームは少なかった。それこそ奇々怪々ぐらいしか
・現代入りとかをなぜ認めるのか?
→東方を作り始めたときに、二次創作の規制とかを考えなかった。
以上
【今だからこそ意味のあるシンポジウムだったのではないか】
さてさて如何だったでしょうか。東方界隈の方々なら、「うんうん、そうだよね」と頷ける内容が多かったのではないでしょうか。今思えばこのシンポジウムから浮かび上がった東方クラスタ像が、最も完成された一つの終着点だったと思います。ニコニコ動画だけでなくTwitterやpixiv、同人誌即売会まで独自の世界を構築した東方界隈、これだけ盛り上がったのは何故だったのか。
僕はこの発表自体が答えだと考えています。
2012年、2013年に入ると、次第に東方界隈はモバマス・ラブライブ!・艦これといった世界と結びつき始めます。東方界隈にも変化が起こり始めました。東方はコミニュケーション手段としての任務を果たし終え、その役割はアニメやSNSゲームに取って代わりました。
しかしそれでも東方界隈では変わらずに素敵な作品がファンによって発表されています。
東方界隈はこの先何処に向かっていくだろう。幻想郷と真剣に楽しく向き合っていた僕らには、それを考えることは大きな意味を持つと、空を見上げながら思うのです。